ウエブ架線

織田レモソが書いたweb小説おきばです

サクラフェイカー / 16 【終】

サクラフェイカー、これにて終了でございます。

ご読了誠にありがとうございました。

 

16:開花宣言

 

 俺が目を覚ますと、そこには柔軟剤と人の匂いの混じった香りが鼻腔をくすぐった。明らかにスカートのような模様が目に映ると、彼女の膝の上に頭が乗っていることに気づいて俺は飛び起きた。

「おはよう」

 日差しの良い天気だった。車は乾いた音をたててアスファルトを走り、風が春の季節を感じさせた。

「……俺、いったいどうして」
「なんか電柱に頭ぶつけてこけて倒れて気絶してたんだよ。ねえ大丈夫?」

 腕時計を見ると午前10時37分で、ポケットにあったスマートフォンを見ると、2013年4月1日と表示されていた。

「……うん、まあなんとか、大丈夫なのかな」

 特に痛いところもないから大丈夫であろう。俺は頭を人差し指でぽりぽりかきながら彼女を見た。彼女は笑ってくれていた。

 何をしに外に出たかわからなくなったので、いったん家に帰ることにした。彼女も行きたいというので連れて行くことにした。

 児童公園に差し掛かると、俺はとっさにあるものを探し始めた。紙袋に入った漫画本だった。しかしそれは公園のどこにも落ちていなかった。俺はどこかで割り切れる気持ちを抱いた。

 公園には子供連れの母子が楽しそうに遊んでいた。俺はその公園の一角にあるサクラの木に対面していった。

「どうしたの?」

 彼女は言った。

「そういえば、蹴りをつけにきたんだっけ」
「蹴り?」
「うん」

 彼女は不思議そうに俺を覗き込んだ。まだ頭のことを気にしているのだろうか。

 俺はためらわずに足を後ろに振り、一旦止めた。蹴りつけようとしたその足は数秒宙に浮いたあと、何もなかったように地面へ戻った。

「あのさ」

 俺は彼女に話しかけると、そのまま自分の気持ちを伝えた。

 サクラの木は風でそよぎ、いい感じに俺の告白を周りから遮断してくれていた。おかげで遊具で遊ぶ子供達もそのお母さんも、俺が彼女のことが好きで付き合って欲しいなんて言ったことなど、桜の花びらほども知るよしがなかった。

 彼女は突然の告白にちょっとだけ拍子抜けみたいな表情をしていたが、次第に色を取り戻し、口角をにっとあげて大きく頷いた。ようやく俺の春は到来したようだ。

 俺はすっと手を差し伸べた。彼女はそれに応え、握り返してくれた。今度は俺の方から強く握りしめた。痛くならないように、でも離れないように、しっかりと強く彼女の手を握った。彼女は逆に俺の手を潰す勢いで握ってきたので嬉しい悲鳴をあげた。

 桜吹雪と桜並木の下を彼女と共に歩いて行く。

 俺はサクラの木を見上げながら、あの彼女のことを思い出した。

 そして俺はその彼女を、桜色の修正液で塗りつぶすようにして頭の中から消していった。

「さようなら、サクラフェイカー」

 あなたのことは、きっとすぐに忘れることでしょう。

 

 

(初稿 2012/11/26 3:00)