ウエブ架線

織田レモソが書いたweb小説おきばです

サクラフェイカー / 12

終わりまであと4回です。

 

 

12:終わりを待つ日々

 

 翌日。

 俺と彼女は初めて会ったSLSの7Fレストランフロア、カフェスマイルにて軽食をとっている。ただいま午前10時過ぎ。朝食の代わりであるベーコンレタスサンドを食いつつ、俺と彼女は一人の女を意識していた。その女は、魔性の女というらしい。

 彼女は、その女を尾行し追跡し調査したいようだった。そして学校の新聞に載せるという。俺は少し疑問に思った。人のプライベートを記事にして公開してもいいのだろうか。しかも一介の高校生が。

「魔性の女はこの辺りでは神出鬼没で有名なんです。みんな魔性の女の実態を知りたがっているんですよ」
「出張で頻繁に訪れてるだけかもしれないじゃないですか」
「彼女の家はあるんです。でもそこは空き地なんです。不思議でしょう」

 そう言って彼女は一通の手紙を出して見せた。電力使用料金の請求書だった。

「それがその証拠です」
「こんなものどこで?」
「それは企業秘密です」
「…………」

 彼女の目に、黒い光を見た気がした。そんなまさか……いやいやいやと首を振る。俺は微かに芽生える罪悪感を彼女の可愛さで押し流し、ただひたすら探偵ごっこを楽しもうとしてコーヒーをすすった。すごく苦い思いをした。

 魔性の女は肩まで伸びる艶やかな黒髪の、三十過ぎの女性だった。化粧はしっかりと施してあり、口紅の色が強かった。顔立ちは整っている方なので、学生時代はモテていたのではないかと俺は思った。なるほど魔性の女なのか。タバコをチョコレートを食べるように吸っていた。なめらかに口に運んでは、白煙を口からふわりと吐き出した。

 俺はある程度までその女を見ると、視線をスマートフォンに移した。あまりジロジロ見ていたら怪しまれる。特に尾行のような観察はしたことがないので、俺はなるべく見ないよう努力した。意味もなく開いたブラウザには、架空請求の件数が過去最下になっているというニュースが出ていた。

 魔性の女が動いたので、俺と彼女も席を立った。ありったけの距離を取りつつ、女を目で追った。

「魔性の女はどんな行動にでるのでしょう」
「特に予定はなさそうに見えますが」
「きっと、男を籠絡しに行くに違いありません」
「そうですかねぇ」

 傍らの彼女は、手に余るデジタル一眼レフを顔にくっつけ、ファインダーを覗きながら何枚も撮影していた。俺はうまく撮れてるか気になりつつも、彼女の好きなようにさせた。

 魔性の女はSLSを出て、開店間もないブティック等をちらちら見て回っていた。俺にはどう見ても休日を持て余した貴婦人にしか見えないのだが、彼女には武器をためつすがめつしているように見えるらしかった。時おり魔性の女は真っ赤なガラケーを取り出して笑顔で会話し、化粧品の店に行って店員とおしゃべりをし、喫煙所で一服しながら、街中をエンジョイしていた。

 それに続く俺と彼女も、割とエンジョイする形になっていた。ライオンの着ぐるみから風船をもらい、化粧品の店でサプリメントを買わされそうになり、大通りの自動販売機でジュースとカフェオレを買った。

 魔性の女は大型書店に入っていった。俺と彼女は横断歩道の向こう側からそれを確認した後、見失わないように急いで店内に足を踏み入れた。幸い、魔性の女は目の前の雑誌コーナーで立ち読みをしていた。

 俺と彼女はひとまず、近くにあった新刊コーナーで女を見張ることにした。俺は適当に漫画を取って見ようとして、彼女の風船に気がついた。

「あの、風船はもうどこかで処分したほうが」
「えー、なんでですか?」
「だって目立つでしょう。尾行してるんですよね、俺たち」
「手放す気はありません」

 彼女は女を目で追いつつ新刊の、特に漫画の方を見定めていた。何か新しくでているのだろうか。彼女は一回大きな瞬きをして、ある漫画に手を伸ばした。俺は彼女が手にとる漫画を見た。説明や背表紙を見て物欲しそうにしながら、しかし漫画本を陳列に戻した。タイトルを見ると、終わりを待つ日々と書いていた。山田しろきちという漫画家が描いているようだった。

 彼女は言った。

「これ読みたいんですよね」
「買ったらいいじゃないですか」
「いえ、いいんです。ちょっと興味があっただけなので」

 魔性の女が動いた。彼女は赤い風船を手に持ったまま、魔性の女が後にした雑誌コーナーへと向かっていった。魔性の女が何を読んでいたのか気になっているらしい。遠ざかっていく彼女を見ながら俺は、先ほどの漫画に気を取られていた。

 終わりを待つ日々。ゾンビになる病気が蔓延する話で、ヒロインはその病気にかかってしまった男の子を看病するというものだった。俺は彼女のためにこの漫画を買ってあげようと思った。二人で読んで、共通の話題が増えたらいいなと思った。

 彼女が魔性の女を追っている間に、俺はすばやくその漫画を手にとってレジへと向かった。精算を済ませると、俺は小さな紙袋に入った漫画を腰にさして上着で隠し、彼女の元へと駆けつけた。

「何やってたんですか」
「新刊に目移りしていて、うっかり見逃していました」
「もう。しゃきっとしてくださいよ、しゃきっと」

 彼女は言葉だけ俺を怒ると、また移動して魔性の女の軌跡をたどった。俺は腰にある漫画をいつ渡そうかなと、思いを巡らした。

つづく