ウエブ架線

織田レモソが書いたweb小説おきばです

サクラフェイカー / 05

言うまでもなく、このサブタイトルはアジカン由来です。中身に関連しているわけではないです。

 

5:アフターダーク

 

 それから会話が途絶えるようになってきたので、場所を移すことにした。

「こういう時、どういうルートを通るべきか、悩みます」
「私もです」

 とはいいつつ、喋りながらいろいろ見て回った。
 まず帽子専門店ハットトリックで、帽子が似合わないという彼女に俺はそれが誤認であることを教えた。

「これは絶対似合いますって」
「いいえ、絶対似合いません」
「かぶってみてくださいよ」

 彼女はかぶってみせた。明らかに似合っていた。彼女の頭に元からあったかのように溶け込んでいる。

「ほらほらほら。全然違和感ないですよ。適当なポーズとったらファッション誌の表紙だって飾れます」
「……」

 彼女はまんざらでもない様子だった。
 タピオカジュースは不味いというところで共感し、スタバでキャラメルマキアートを飲んだ。

「あれが美味しいと思っている人の味覚が理解できません」
「ですね」
「やっぱりこれに限りますよね」
「……俺は普通の方が良かったです」

 トイザらスではなぜか知育玩具を見て回った。

「知育玩具って本当に知育の役に立つんでしょうか」
「俺は面白いと思いますけどね」
「買ってあげましょうか?」
「これ以上頭良くなっても困りますよ」
「……自分で自分のこと頭良いとか言っちゃう人ってどうかと思いますよ」
「真面目に捉えないでくださいよ。冗談ですって」

 ゲームソフト売り場でPS2が至高であるということを彼女に力説された。

「かくかくしかじかで、最終的にPS2は最強ですよね」
「そのかくかくしかじかを聞かせてくれないとわからないです」
「いいんですか? 言ってしまっても」
「やっぱりやめておきます」
「残念、語ります」

 彼女のやる気スイッチをうっかり押してしまったようで、その後31分29秒、延々と語っていた。辛かったのは、子供連れの大人の方々に変な目で見られたことだった。もう彼女をゲーム売り場に連れて行くことはないだろう。

 巡り巡って最終的にゲーセンで遊ぶことになった。

「ゲーセンと言ったら、これでしょ」

 彼女はジェスチャーで伝えてきたが、最初なんのことだかわからなかった。向かった先がUFOキャッチャーで、俺はますますあのジェスチャーに疑問を持った。初音ミクのフィギュアが欲しいとねだる彼女のために2000円すって、俺の財布から野口が消え失せた。

 彼女の得意なクイズゲームで一喜一憂した。

「電圧を英語で何て言いますっけ?」
「わからないけど、多分Voltageじゃない? 頭文字Vだし」

 画面に正解の文字が躍り出る。彼女は指を鳴らして喜んだ。

「アルアイン遺跡がある国は?」

「……インドネシア?」

 不正解が躍り出る。正解はオマーンで、彼女は親指を噛んだ。
 なんだかんだで時計は19時を回り、俺と彼女はようやく外に出た。夜は少し肌寒く、袖をしっかりと伸ばして風を防いだ。彼女も上着を着直した。

「春は好きなんですけど、寒暖差があるから服装考えないといけないので、面倒ですね」
「俺は早いとこ夏になってもらいたいです」
「夏が好きなんですね」
「夏生まれなので」
「私も春生まれなので、春が好きなんです」

 彼女にはぴったりの季節だなと俺は思った。桜庭という苗字からもそうだが、彼女には春の日差しと似通った暖かさを感じる(夜の寒さにも似た冷たさも)。

 地下鉄に乗って市街地まで出ると、日は沈み、街灯やビルの光が煌々としていた。いつもよりなんだか透き通って見えたのは、隣で肩を並べて歩く彼女の存在に他ならなかった。

 駅に着くと、彼女は笑顔で手をふって帰っていった。見えなくなって数秒後、すぐにメールが来た。

「今日は、ありがとうございました。楽しかったです」

 俺はメールを打ち返すと、東出口のバス停へと急いだ。またすぐにメールが来て、俺はまた返信した。バスが来てふぅと腰を落ち着けてすぐにまたメールがきたので放っておいたら、連続でメールが来て(しかも内容はどうして返信がこないのかの質問で)焦った。彼女の最大の欠点は、多少メンヘラなところがあることだった。

 その後、自宅に帰って風呂に入って布団に入るまで、メールのやりとりは続いた。受信箱は桜庭早樹のオンパレードになり、これじゃまるで迷惑メールだなと、俺は思った。

 

つづく