ウエブ架線

織田レモソが書いたweb小説おきばです

サクラフェイカー / 04

このタイトルは、僕考案ではありません。

 

4:うみねこの見えるステージ

 

 風の強い商業ビルを彼女と二人、散策した。面しているのは都市の埋め立てた港。水面がきらめき、午後の日差しを乱反射させている。はりぼてで作られた海上特設ステージでは、名も知らぬアーティストがナイロンギターを手に音楽を奏でていた。

彼女の歩く早さに合わせながら、景色を眺めていく。

「音楽は何を嗜みますか?」

 ふいに訪ねてきた。彼女は歩を止めてステージを見ていた。

「特に決まってませんね。気に入った曲を聞きます」
「では気に入った曲は何ですか?」
「思いついた曲を挙げるなら、Let It Beとアフターダークと渚とNon stop load、そして耳をすませばのカントリーロードと百花繚乱、ねこみみスイッチとかですかね」

「オールジャンルな感じですね」
「と言いますけど、演歌は聞きませんし、ラップもあまり聞きません」
「私もです」
「桜庭さんはどんな曲を?」
「桜坂が好きです。歌っている人も好きです」

 俺はそれを聞いて何かしらの敗北感を抱いた。割りと面食いなのか。歌っている人物の顔を思い浮かべ、かけ離れた自分を比較すると、途端に景色がモノクロになった。

「もしかして、比較しちゃいました?」
「あまりの違いに。涙で景色が滲んでます」
「そう肩を落とさないでください。人間、顔なんてどうでもいいんです。整形技術は進んでいます」

 それは全く慰めになっていなかった。俺は力なく笑った。

「今度、顔を変えて出直してきます」
「顔は洗うものです。変えるものではないですよ」

 彼女はステージの方に移動し始めた。あとに続く。階段状にくり抜かれたスペースの段々に、腰掛けた彼女は俺の方を向いた。俺は遠慮がちに隣に座った。

「特に思いつくところもないので、ここで時間を潰しましょう」
「この後何か予定でもあるんですか?」
「いいえ、特に。今日は終日、朝倉さんとの時間に充てるつもりだったので」

 彼女は微笑んだ。可愛い笑顔で顔がだらしなくなる自分を感じつつも、普段より強く重力がかかっている気がして心は思ったよりも冷静だった。

「朝倉さんは彼女とか……?」
「ああ、いえ。一度もいなかったです」
「あ、そうなんですか。実は私もです」

 この時、俺は間違いなく嘘だと思った。男の直感だった。当たるのかどうかわからないが、脳みそは完全に嘘だと言っていた。

「正直、私、デートの仕方とかよくわからないんですよね」
「ああ、それわかります。一体何をすればデートと呼べるのか」
「そうですよね」

 彼女は大きくリアクションをした。共感しているようだ。

「でも女の子だったら、そういうのが話題の中心になることが多いんじゃないですか?」
「周りの友達との会話は、なんとなくついていってるというか」
「うまく溶け込んでる?」

 俺は笑った。

「はい」

 彼女も笑った。

「私の周りは、彼氏と悪口とお菓子と下ネタと漫画とテレビと耳の裏の匂いの話題が主なので、デートがなんたるかを知らなくても友達の輪に入れるんですよ」
「そして、体から芭蕉の匂いがするんですよね?」
「そうです」

 冗談めかしていたら、一曲終わって会場から拍手が起こった。パタパタと乾いた音がなり、アーティストは深々と頭を下げた。俺と彼女も拍手を贈った。

「それにしても意外です。恋愛経験は豊富な気がしましたけど」
「それは私のセリフですよ」
「そうですか?」
「そうですよ。朝倉さんなんか、何人も女の子を白目にさせてる顔してますもん」

 ちょっと本格的に整形しようかなと考えてしまった。一体どんな顔をしているんだ、俺は。自分の顔に疑問を持った。

「魅力的ってことですよ」

 彼女はずっと向こうのうみねこを見ていた。できればその言葉は、俺の目を見て言ってほしかった。しかし冷静に考えてみると、女の子を白目にしているような顔は魅力的なのか。彼女は野生的な肉食男子が好みなのか。うーむ。

 

つづく